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よっぽどそれをもらった事がうれしかったのか、今日もわざわざ胸に着けていたのだ。麻耶が指に力を込めてブローチを左右に折る。その下にはいかにも不似合いな精巧な、一センチ角程度の大きさの電子回路があった。
「あの黒人のおばさん、どうやらこれが目的で君に近づいたんだな」
俺はラミエルにそう言った。可哀そうだが事実は事実だ。途端にラミエルが床に座り込んで顔を手で覆った。クッ、クッという声が漏れている。
「すみません……すみません……わたしがお二人まで危険な目に……」
今回ばかりは麻耶もやさしくなぐさめた。
「いいのよ。気がつかなかったのはあたしのミスよ。国連とはいえ、外交の世界は権謀術策の世界なんだから、あたしがもっと注意するべきだった……」
そして座り込んでいるラミエルの背中をやさしく撫でながら言った。
「もういいわ、ラミちゃん。このブローチの正体が分かれば、後はこっちのものよ。せいぜい振り回して遊んであげる。フフフ……」
そこで突然部屋の電話が鳴った。ひゃっと飛び上がる俺を尻目に麻耶は電話に近づき、フロントからである事を確認してぼやいた。
「なんなのよ、まだ一時間も経ってないのに」
受話器を取ると男の慌てふためいた声が俺の所まで聞こえてきた。
「お客さん、早くそこから避難して下さい。例の殺人光線をだすUFOが上空に出現しました!」
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