第5章 全人類人質計画

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「この……この……この……馬鹿兄貴!」  麻耶が俺に食ってかかっていた。  あれから俺のアパートへ戻り、ラミエルがスパコンで円盤の記録を調べるとやっと何が起きたのかが分かった。いや、正確に言うと、なぜ何も起きなかったのかが分かった、という事だったのだが……  俺が今朝円盤の設定をした時、うっかり英語入力画面にしてしまった。辞書を見ながら、それもスパコンの画面と何度も見比べながらやったものだから、とんだポカをやらかしていたのだ。  あの時俺は中性子を意味する英単語、すなわち「neutron」と打ち込んだつもりだった。ところがラミエルが記録を調べるとそこには「neutrino」と打ち込まれていた。中性子を英語で言うとニュートロン。しかし俺はニュートリノを意味する英単語を間違って入力してしまっていたのだ。  ニュートリノ。  電荷を持たない極めて小さな素粒子で、特徴は他の物質や素粒子と「ほとんど相互作用を起こさない」事。ちょっと前まで質量があるのかどうかさえ不明な謎の素粒子だったが、日本の偉い科学者のチームが実験で極めて小さいが質量が、つまり重さがあるという事を証明して世界を驚かせた。  中性子と違って、他の素粒子や原子核に当たっても、ほとんどの場合そのまま何の変化も起こさずに通り抜けてしまうという、いうなれば幽霊みたいな素粒子だ。つまりニュートリノが何億個あるいは何兆個放射されたところで、人体はもちろん地球をもなんなくすり抜けてそのまま飛んで行ってしまい、そしてほとんどの場合何も起こらない。
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