第6章 時を賭ける少女

3/11
前へ
/285ページ
次へ
「時空連続体の正確な構造はわたしの星の科学でも完全には解明されていないんです。未来への時間旅行が何故出来ないのか、これは未だに最大の謎とされています。」  それがラミエルの説明だった。ただし、同じ時間帯での空間的移動は無制限だそうだ。そこで俺はある事を思いつきラミエルに提案した。彼女は最初驚いて迷ったが、最後は承諾した。  俺とラミエルの二人が乗れば行ける時代と場所……俺は十六年前の地球と十七年前のラミエルの星へ行き、赤ん坊時代の麻耶とラミエルをすり替える事にしたのだ。  まずは十六年前の地球、日本へ。俺と麻耶が生まれたのは東京郊外の街の市民病院で、夜は看護婦さんが数十分おきに見回りに来るぐらいで見張りは手薄だ。まだこんな普通の病院の中にまで監視カメラが取り付けられているような時代じゃないから、忍び込むのは簡単だった。  新生児室のベッドにいた赤ん坊の麻耶をラミエルがそっと抱きあげて宇宙服でくるむ。すごい防音効果で赤ん坊の息をする音さえ聞こえなくなった。それから急いでラミエルの球体に乗り込み、今度は十七年前の彼女の星へ宇宙を飛んだ。  その宇宙旅行の間、ラミエルは操縦で手がふさがっていたので、俺が赤ん坊の麻耶をあやしていた。その時俺はこんな事を考えていた。  これまでのあいつの破天荒な行動を間近に見てきて、俺はこう思うようになった。麻耶はある種の天才なのだ、と。もし戦国時代や未来の時代に生まれていたら、軍事の天才として歴史に名を残したかもしれない。
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加