第6章 時を賭ける少女

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 だが、平和ボケ日本の平凡なサラリーマン家庭に生まれた麻耶はその才能を発揮できる場所も機会もない。あいつの日頃からの非常識な言動は、ひょっとしたらそのフラストレーションの表れだったのかもしれない。  たとえばベートーベンやモーツァルトの様な天才音楽家だって、楽器もろくにない原始時代に生まれていたりしたら、その才能を花開かせる事もなく一生を終えていただろう。それと同じ事だ。  だが、もし麻耶がラミエルの星で生まれていたら?現代地球では想像もつかない高度な科学力を持ち、その気になれば他の星を侵略、征服する事も出来る、そんな環境で育ったらどうなる?  麻耶にとってはその方が人生幸せなんじゃないか?それが悩み続けた末の俺の結論だった。そう、麻耶はもっと知識、科学の発達した高度な文明社会で軍人にでもなるべき才能の持ち主だ。  一方ラミエルは、もう自分の星へ帰りたくない、このまま地球で一生を送りたいと言い出した。もともと征服作戦以前に軍人に向いていない女の子だし、彼女の星から見れば遅れた野蛮な文明段階の地球が好きになってしまったらしい。彼女はこう言っていた。 「わたしは地球でいろんな人に会いました。確かに野蛮で非効率な文明ですが、それでも遠い外国の子供を助けようとして必死に知恵を絞って頑張っている人たちがいたり……大切な売り物を困っていそうな若者にこっそり分けてくれる心優しい人たちが、街のあちこちに大勢いたり……わたしはこう思うようになったんです。わたしの星もよその惑星を征服して問題を解決しようとする前に、まず自分たちで解決のための努力をするべきなんじゃないかって。自分たちの力で自分たちの星を救う、まずそれをやってみるべきなんじゃないかって……」
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