第6章 時を賭ける少女

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 そして俺たちは十七年前のラミエルの星にたどり着いた。そこは俺が想像していた通りの超ハイテク都市だった。海や山はあるが、確かに緑は乏しく空気全体がよどんでいるような感じがした。  高さ千メートルを超える巨大な円筒形のビルが見渡す限り連なっている。その一角に俺とラミエルは、拍子抜けするほどあっさりと忍び込む事が出来た。警備や見張りは全てロボットがやっているから、ラミエルが手にしたコンパクト型スパコンでちょこちょこっと情報をいじれば、あっけなくロボットたちは俺たちを通してしまった。  さすがに新生児室には人間の見張りがいたが、俺たちは廊下の陰に隠れて見張りが立ちさるのを待ち、その部屋に入り込み、赤ん坊のラミエルを見つけた。ラミエル自身が過去の自分に直接手を触れると危険かもしれない。だから俺が赤ん坊のラミエルを抱き上げて宇宙服に包み、ラミエルが赤ん坊の麻耶を新生児用カプセルに寝かせた。  赤ん坊の麻耶は何も知らずにぐっすり眠っている。さらばだ、妹よ。お前はこの星でもっと幸せな人生を送るんだ……  柄にもなく少しセンチメンタルな気分になったが、俺は男らしくきっぱりと妹に別れを告げ、赤ん坊のラミエルを連れて十六年前の地球へ引き返す。赤ん坊のラミエルを、さっきまで麻耶が寝ていた新生児用ベッドにそっと置き、途中巡回中の看護婦さんに危うく見つかりそうになりながらも、なんとか病院から誰にも気づかれずに抜け出した。  さあ、後は俺たちの時代の地球へ帰るだけだ。そこではラミエルは俺の妹として存在しているはずだ。 「あれ?ラミエル……君の髪の色が……」  俺はふと彼女の変化に気づいて言った。ラミエルも肩のあたりの髪をつまんで驚きの声を上げた。 「ほんとです。麻耶ちゃんみたいな黒い髪になってる!」  どうやら彼女の紫の髪というのは母星の環境か何かの影響でそうなったらしい。いつの間にか彼女の髪は地球人である麻耶と同じ色に変化している。ということは、どうやら赤ん坊すり替え作戦はうまく行ったらしい。  帰りの球体の中で俺とラミエルはしっかり抱き合ったまま、夢見心地で過ごした。帰りの軌道と位置は自動操縦に任せてあるから問題はない。が、後で考えるとこれがいけなかった。地球の上空に入ったら一応外の様子を確認するべきだったのだ。
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