第7章 それでもやっぱり、故郷は地球

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 考えてみれば、ラミエルという宇宙人と共に過ごした間、俺は普通の学生には絶対不可能ないろんな珍しい体験をした。必要に迫られて苦手な英語や社会科の知識も使わされたから自然にいろんな事が頭に入っていたらしい。  それにラミエルの超科学も、基づいている物理法則などは地球のそれと同じだ。だから自分でも気がつかないうちに、彼女の知識に触れる事が俺の得意の理系の分野の勉強にもなっていたようだ。  それに命がけの経験を重ねた事で、どうやら俺のたるんでいた脳細胞そのものが活性化されたようだ。以前はどれだけ予備校の授業で聞いても右から左へ抜けていた講義の内容がちゃんと理解出来るようになっていた。  というわけで、夏場から三カ月ろくに予備校に行かなかったにも関わらず、俺は念願の大学入試突破を果たす事が出来たのだった。 「ねえ、兄さん。引っ越さないって本当?」  大学を出て俺のアパートへ向かう道すがら、麻耶がそう訊いてきた。 「ああ、ボロだけど家賃は安いし。これからは授業料にも金かかるしな」 「それにしたって通学が不便でしょ?何か理由でもあるの?」  理由は……ある。でもそれを言うなら、麻耶、お前の方はどうなんだ。なんで今でもちょいちょい俺のアパートへ来たがる?  そう、二人とも思いは同じはずだ。俺たちは今でも、どうしても忘れられないでいる。数ヶ月前突然俺たちの前に現れ、そして突然消えてしまった一人の少女の事を……ラミエルという名の宇宙人の事を。  ラミエルが戻って来るとは俺も思っていない。それは麻耶もそうだろう。けれど人間というのはおかしな生き物だ。そうと分かっているのに、でももしかしたら、という気持ちを完全に消しさる事が出来ない。
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