第9章 とろい木馬

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 これは後になって分かった事なのだが。日本の自衛隊は、戦争の放棄を宣言し、武力の保持を禁止している憲法第9条との矛盾をはらんだ状態で誕生した。第二次世界大戦で日本軍に散々な目に遭わされた連合軍は、最初は占領した日本の軍事力を徹底的につぶそうと考えた。憲法第9条もその流れで制定された物だった。  だが共産主義諸国が力をつけ始め、世界がアメリカ率いる自由主義陣営とソビエト連邦が率いる社会主義陣営に二分されて対立するようになり、日本を軍隊のない状態にしておいて大丈夫か?とアメリカも考えを変え始めた。そして1950年、アメリカが最も恐れていた事態が日本のすぐ隣で発生した。ソ連の援助で強大な軍事力を持つ社会主義国家が武力で資本主義国家を併合しようとしたのだ。朝鮮民主主義人民共和国、俗にいう北朝鮮が韓国に侵攻した、朝鮮戦争だ。  朝鮮戦争はアメリカと中国が介入し、まあ引き分けに終わったが、これでアメリカは決定的に日本に対する考えを変え、日本に再び軍隊を持つように命じた。  しかし、既に憲法第9条が出来ていたため、日本が軍隊を持つと憲法違反になってしまう。そこで当時の日本政府は、自衛隊は国を守るための必要最低限の武力であり、戦争するための組織ではないので、軍隊ではありませんという、かなり苦しい理屈をつけて1954年に自衛隊を創設した。  だが米ソ対立の冷戦時代は、日本国内にもソ連陣営を応援する人たちも多く、自衛隊は「軍隊じゃないか?憲法違反だろ?」という非難に常にさらされる事になった。そこで、軍隊ではない、戦前の日本軍とは違う、という事を強調するため、自衛隊で使う言葉は、戦争、戦闘、軍隊を連想させる用語をできるだけ避けるように工夫された。
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