第9章 とろい木馬

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 たとえば俺たちが今回乗った「そよかぜ」のような船は、本来は「駆逐艦」と呼ばれるタイプの軍艦の一種である。しかし「軍艦」「駆逐艦」という言葉は戦争を連想させるので、「護衛艦」という日本独特の呼び方をするようになった。だから何かを護衛するから「護衛艦」と呼ぶわけではなかったのだ。  こういう自衛隊独特の用語は21世紀になった現在でも受け継がれている。ざっと思いつくだけでこんな具合だ。  兵器、武器は「装備、装備品」、歩兵は「普通科」、工兵は「施設科」、砲兵は「特科」。そう、俺たちが特殊部隊だと思い込んでいたあの小隊は、大砲の類を扱う専門家の兵隊さんだったのだ。ちなみに防衛省にいたのは、偉い人に何かを報告しに来て待たされていて「待機中」だったのだとか。昔は戦車のことを「特車」と呼んでいたそうだ。まあ確かに「特殊な車両」ではあるから、分からないでもないが。  桂木二尉の「二尉」というのも、戦前、あるいは外国の軍隊なら「中尉」と呼ぶのが普通だそうだ。大佐、中佐、少佐がそれぞれ「一佐、二佐、三佐」、大尉、中尉、少尉がそれぞれ「一尉、二尉、三尉」という具合。  こういう日本独特、自衛隊独特の言葉を知らなかったばかりに、俺も麻耶もとんだ勘違い、早とちりをしてしまっていた、というわけだったのだ。
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