第10章 残酷な上司のテーゼ

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 反粒子というのは、原子核を構成する陽子、電子、中性子と反対の性質を持つ素粒子のことだ。陽子はプラス1の電荷を持つが、それと質量、つまり重さだな、が同じでマイナス1の電荷を持つ素粒子が存在する。それが反陽子。  電子はマイナス1の電荷を持つが、他の性質はそっくりなのに電荷がプラス1の、反対の性質を持つ陽電子という素粒子が存在する。これは英語で「ポジトロン」とも呼ぶ。中性子には電荷が無いが、バリオン数という性質が反対の反中性子という素粒子がある。  この反対の性質の素粒子同士が接触すると両方の質量が光と熱エネルギーに変わって消滅してしまう。これを対消滅と言う。まあ素粒子2個分の質量なんて知れたものだが、全てがエネルギーに変換されると爆発的な反応を起こしてコンクリートの塊ぐらい吹き飛ばしてしまうわけだ。あのロボットについていた反陽子ビーム砲というのは、反陽子を高速で飛ばして標的の中の原子核の陽子と対消滅を起こさせ、その時放出されるエネルギーで破壊する兵器らしい。  全員で一旦さっきのカマボコ型の倉庫に戻ったところで、ラミエルのコンパクト型スパコンにまたメールが届いた。ラミエルがそれを開け、全員で覗き込むとこんな文面だった。 「明日午後3時にその場で。震えよ、畏れと共に跪け」  どうやら、またしてもマクスウェルの魔女たちからの挑戦状のようだ。俺たちが対宇宙人用の新兵器を手に入れた事を早くも知って向こうからお出ましというわけか。桂木二尉が不敵に笑いながら誰にともなく言った。 「ふふーん。いいわ、返り討ちにしてやろうじゃないの。麻耶ちゃんの二号機は間に合わないかもしれないけど、早太君、出来るわね?」  正直言って自信はなかったが、俺は思い切り強がって見せた。 「そりゃ、もう、任しといて下さい。見かけはともかく、あのロボットさえあれば、もう泥船に乗った気分ですよ」 「いえ、あのね。そこは大船と言って欲しいんだけど……」
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