第10章 残酷な上司のテーゼ

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 やがてその飛び出した物が戦闘機の操縦席シートらしいと分かった。すぐにパラシュートが開いてパイロットが座席ごとゆっくりと降下して来る。俺のヘルメットの無線通信装置に桂木二尉の金切り声が割り込んできた。 「ちょっと!パイロット!何をやっているの?」  パラシュートで降下中のパイロットの物らしい狼狽しきった声がそれに続く。 「分かりません!緊急脱出装置が突然勝手に作動して!」  さては?俺の予感は当たっていたようだ。パイロットを失ったF-14戦闘機はまるで引き寄せられるようにマクスウェルの魔女たちの方へ近づいてくる。俺たちの無線に1号サチエルの声が割り込んできた。 「さあ、わたくしの元素使いとしての力、よくご覧になって」  その戦闘機は突然空中で分解し始めたかのように見えた。だがすぐにそうではないことが分かった。真ん中から二つに折れてエンジン部分が下に突き出し、操縦席のある部分がくるりと引っくり返って主翼が折りたたまれ……それは、まさしくスマートな人型の機械に変形して俺の初号機の前に着地してきた。俺はあわてて無線で桂木二尉に叫んだ。 「人型ロボットに変形する戦闘機ですか、あれは?自衛隊はそんな物を持っていたんですか?」  桂木二尉は震える声で答える。 「そんなわけないでしょ!そんな進んだ物、世界最強のアメリカ軍だって持ってないわよ。あの宇宙人の超能力で原子レベルで操られているんだわ!」  またサチエルの声が無線に割り込む。 「わたくしたちの相手をするとおっしゃるのなら、この程度の物は用意して頂きたかったですわ」  ううん、確かに。来るべき異星人との戦いに備えてというのなら、戦闘機から変形するロボットの方がよかったかも。いや、今はそんな事を言っている場合じゃない。サチエルが操るロボットが俺の初号機に襲いかかって来た。
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