第10章 残酷な上司のテーゼ

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 俺は必死に反撃したが、相手の方がスマートな形をしているだけあって動きが速すぎて追いつけない。敵ロボットの蹴りが俺の初号機の頭を直撃し、スクリーンの画像が数秒間乱れた。俺は初号機の右手で左腕をつかんだが、二尉に無線で制止された。 「早太君、だめよ!まだ胸のランプが青のままよ!もう少しねばって」  そ、そんな事を言われても……敵ロボットの動きが速過ぎる。そして数秒後、俺の初号機の左腕が根元からむしり取られてしまった。なんて事だ!これじゃ反陽子ビーム砲が、あの必殺技が使えない。  しかも今頃になって胸のランプが赤に変わって点滅し始めた。ピコン、ピコンという音が俺の頭の中にまで響き渡る。これは非常用電源に切り替わった合図。じゃあ、あと1分ぐらいしか保たない。うわあ、もう駄目だ。 「兄さん!今行くわよ!」  無線から響いてきたのは麻耶の声だった。あわてて周りを見渡すと、右手の方向から俺の初号機とそっくりな形のロボットがタイヤをきしませて走って来る。塗装が赤いところだけが違うが全く同じ形。そうか、あれが麻耶用の二号機。  麻耶の二号機はそのまま左腕を外し、反陽子ビーム砲の銃口を戦闘機が変形した敵ロボットに向けて構える。だが……俺はのどが裂けるかと思うほどの大声で麻耶に向かって無線越しに叫んだ。 「麻耶!ば、ばか、よせ。お前の二号機、まだ胸のランプが青のまま!」  だが麻耶の二号機はおかまいなしに反陽子ビームを発射した。そのビームは狙いたがわず、敵のロボットに命中し、敵の機体は俺の目の前で閃光とともに砕け散った。その破片は四方に飛び散りマクスウェルの魔女たちにも襲いかかったが、サチエルはテレキネシスのバリアでそれを涼しい顔で防いだ。 「わたくしとした事が、すこし侮り過ぎましたようね。今回はこれでお暇いたしましょう。では、いずれまた」
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