第11章 劣情ロマンチカ

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 うわ、大丈夫か?怪我していなければいいけど。俺はそのヘルメットを拾って急いでその女の人に駆け寄った。そしてそのままその場で固まってしまった。女の人はヘルメットを受け取ってかぶり直し、両手を胸の前で合わせてお礼のポーズを取り、そのままバイクで走り去って行った。  どうやら怪我はなかったようだが、それは問題じゃない。今の女の人、首から上が無かったように見えたんだが……い、いや、これは俺の見間違いだろう。池袋に首の無いライダーが住んでいるなんて、そんな怪談みたいな話あるわけがない。  俺は急いで携帯電話で桂木二尉に今の話を告げた。まあ、その女性に首が無かったというところは言わなかったが。すぐに桂木二尉が車で俺を拾いに来て、俺たちは一度防衛省に戻って会議を始めた。  おれの説明をもう一度聞いた二尉は、テーブルをパンと掌で叩いて叫ぶように言った。 「そうだったわ!東京タワーと決めつけてかかったのが間違いだったのよ。再配信施設があったじゃない!」 「再配信施設?何ですか、それは?」と俺。二尉が答える。 「高層ビルの陰なんかだと、テレビの電波が届きにくい場所があるでしょ。そういうビルには大きなアンテナを置いて、一度それでテレビ電波を受信して、近くの電波障害がある家庭にそこから電波を送るの。来月にデジタル放送に完全に切り替わるまでの応急処置としてね。それをテレビ電波の再配信施設と言うのよ。そして池袋のサンシャイン60ビルにも、そのためのアンテナがあって、設備そのものはまだ生きているのよ!」
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