第11章 劣情ロマンチカ

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 俺は桂木二尉の顔を見た。二尉は無言でこくりとうなずく。俺と二尉はトイレの屋根から飛び降り、狂ったように2号機めがけて殺到する女の子たちをかき分けながら、ユミエルの元に走り寄った。道路の隅の空いた隙間に二人がかりでかろうじてユミエルを引きずり出す。彼女のセーラー服の上着はぼろぼろに引きちぎられていた。上半身はほとんどブラジャーだけの格好だ。  俺はあわてて横を向き、そこに露天商のワゴンがある事に気付いた。Tシャツとかの露天だったらしい。そこに日本サッカー代表の青いユニフォームの上着があったので、五百円玉をワゴンに放り込んで一枚シャツを取り、それをユミエルに押しつけた。 「と、とにかくこれを着てくれ。目のやり場に困る!」  サイズが大きすぎてユミエルにはまるでガウンのようになってしまったが、あの格好よりはましだ。俺と二尉はユミエルを引っ張ってラミエルが待っているトイレの建物の屋根に戻った。そこからユミエルは半べその表情で「おねえさま、どこですか?」と叫んだが返事はない。  俺は自分のトラウマになっている、子供の頃の出来事を思い出した。あれはデパートのバーゲンセールの日、母親に連れられてバーゲン会場に行ったのだが、値引き品に殺到するおばさんたちのあまりの迫力に怯えて逃げ出した。今の眼前の光景はその時の恐怖を俺に思い出させていた。その事を話すと桂木二尉は深刻そうな表情で深くうなずきながら言った。 「そうね。今はギャルでも、この子たちも数十年後にはバーゲンハンターのおばさんになる。その潜在意識に火をつけてしまったのだとしたら……」  二尉はユミエルに視線を向けながら続けた。 「これはもう、誰にも止められない」
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