第11章 劣情ロマンチカ

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「わ、わたしは何て事を……」  ユミエルは両手で顔を覆って泣き崩れた。しかし次の瞬間、決死の覚悟を決めたような顔つきになり、両腕をいっぱいに広げて目を閉じた。 「やめなさい!ユミエル!」  俺たちの足元にうごめく少女たちの群れのどこかからサチエルの声がした。 「それはあなたの能力の……キャア……限界を……イヤア!」  その声にかまわず、ユミエルは両手を広げたまま眼下の女の子たちの群れに上に身を投げた。俺たちが止めるひまもなかった。次の瞬間、そういう趣味はないのでユミエルの脳波転送には反応しなかった俺たちにもはっきり分かるほどのすさまじいテレパシーの奔流が辺り一帯を包んだ。  獣のような雄たけび、いやこの場合は雌たけびと言うべきなんだろうか、をあげていた女の子たちが全員、魂を抜かれたように気を失い、その場にうずくまった。「ユミエル!」という叫び声をともに1号サチエルが少女たちの体の海から宙に飛びだし、ユミエルの体を抱いて近くにある石碑の上にふわっと降り立った。その石碑の表面には「永久平和を願って」という文字が彫られている。  膝まで届く青い日本サッカー代表チームの上着を着たユミエルがサチエルの腕に抱かれてその石碑の上に両手を広げた格好のままたたずんでいるように見えた。ちょうど夕日が沈む時間で、地面に倒れた女の子たちの髪や服が夕日に照らされて金色に輝き、まるで金色の絨毯のように見えていた。
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