第12章 ブラッド・ピーッ

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 彼女たちの方にゆっくりと歩み寄りながら、拳銃を水平に前に突き出したままの二尉が怖いぐらいに冷静な口調でつぶやく。 「やはりね。そちらのお嬢さんはテレパシー使いだから、弾丸を停めるほどの力はないようね」  俺は心の中でちょっと感心していた。能天気でとぼけた人だと思っていたが、さすがは現役の自衛隊員だ。あのマクスウェルの魔女コンビ、一見無敵に見えるがそういう弱点があったわけだ。強力なテレキネシスを持たないユミエルを集中攻撃すれば、サチエルもいつまでも守りきれない。  相手もそれを悟ったようだった。サチエルはユミエルを自分の背中に隠すように立ちはだかり、両手を開いて手首を合わせ掌を花のように開き、そのまま自分の腰のあたりに引きつけて……ということは、次のボケというかセリフは…… 「カ、メ、ハ、メ……」  あ、やっぱり。最後の一文字は彼女の手から放たれた衝撃波にかき消されて聞こえなかったが、俺と麻耶と二尉はその場で後ろ向きにずっこけた。俺たちの上をサチエルが放った衝撃で震える空気が突風になって通り過ぎて行く。  どうやら、あまりにも予想通りの展開だったので、麻耶も二尉も無事で、素早く起き上がって態勢を立て直す。まったく、イケスカンダル人の地球に関する知識って、どこか偏ってるぞ。  が、俺の後ろでドサっという重々しい音がした。何かと思って視線をそちらへ向けた俺は、全身の血が音を立てて凍りつくような気がした。そこにはラミエルが倒れていた。それも上半身血だらけで……ラミエルだけは、さっきの衝撃波をよけられず直撃を受けてしまったらしい。  ラミエルの体からどくどくと流れ出る血は赤かった。そうか、イケスカンダル人の血も俺たち地球人と同じ色なんだな……俺はショックのあまり、場違いな、馬鹿げた事が頭の中を駆け巡っていた。
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