第12章 ブラッド・ピーッ

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 真っ先に反応したのは麻耶だった。麻耶が何かを叫びながらラミエルに駆け寄り、抱き起こし、自分の両手をラミエルの血で真っ赤に染めながら、何かを大声で言っている。俺はまるでテレビ画面の中の、どこか遠い世界の出来事を見ているような感覚で、ただ茫然とその場に立ち尽くしていた。  そして突然、俺の聴覚がよみがえったかの様に、麻耶が「ラミちゃん!」と繰り返し叫ぶ声が聞こえ始めた。ラミエルはぐったりと麻耶の膝の上に横たわったまま反応がない。  麻耶がそっとラミエルの体を地面に横たえ、目に涙を浮かべて、しかし怒りに我を忘れた形相でサチエルたちの方へ向かって猛然と走りだした。俺はまだ夢の中にいるように頭が混乱していたが、反射的に麻耶の後を追った。  麻耶の真後ろから追いかける格好になったため、サチエルの顔が正面に見えていた。彼女は例によって右手を俺たちの方に突き出していたが、その手は小刻みに震えている。そして、さっきまでの冷笑的な笑みは消え、いや、むしろ何かに怯えているような、ひきつった表情を浮かべていた。  俺の体に、前進を押しとどめようとする力が加わるのを感じた。だが、それはさっきまでのそれとは比較にならない弱い物だった。ちょっと力を入れると易々と、その目に見えない壁を突破出来た。それは麻耶も同じだった。  麻耶は怒り狂った形相で、一気にサチエルの目の前まで到達し、固く握りしめた拳をサチエルの顔面に叩きつけた。横から止めに入ろうとするユミエルに、俺は体当たりした。宇宙人で超能力者とは言え、その体の感触は地球人と何も変わらない。小柄なユミエルの柔らかい体はそのまま吹っ飛ばされる。  麻耶は次々とパンチを繰り出し、しかしサチエルは反撃どころか防御する事もなく、麻耶に一方的に叩きのめされていた。そして振り上げた麻耶の腕を後ろから別の手がつかんだ。桂木二尉だった。麻耶を横に放り投げるようにしてどかせ、二尉は手にした拳銃をサチエルの胸に当て引き金を引いた。プシュッという音がした。二尉はすぐに猛然とユミエルに駆け寄り、その首筋に拳銃をあて、引き金を引き、またプシュッという音がして。
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