第12章 ブラッド・ピーッ

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 変だな。拳銃を発射したのに、小さな空気が抜けたような音しかしない。俺はまだ事態の重大さに頭がついていけないでいるんだろうか?だが、そうではなかった。 「殺したの?」  と訊く麻耶に桂木二尉は手の中の銃を見せながら答える。それはさっきまで持っていたごつい自動拳銃ではなく、白っぽいプラスチック製のオモチャの拳銃のような形をしていた。 「いいえ、これは麻酔弾よ。いくら宇宙人でも半日は目を覚まさないでしょうね」 「だったら、あたしが!この手で!」  そう叫んでなおも倒れたサチエルに飛びかかろうとする麻耶。二尉が「捕虜にするのよ」と言いながら麻耶を止める。麻耶の両手は真っ赤に染まっていて……  赤。真っ赤。血……そうだ!血! 「うわああああああ!」  俺は今さらながら絶叫を上げてラミエルに駆け寄った。地面に力なく横たわっているラミエルの上半身を抱き起こす。ラミエルの頭と肩のあたりに透明なゼリーみたいな大きな物が張り付いている。テレビか何かで見た事があった。戦場で負傷した兵隊の応急止血のために張り付ける物だ。どうやら、桂木二尉がとっさに応急手当をしておいてくれたらしい。  ラミエルの体はまだ温かく、口元に手をあてると呼吸もしているのは分かった。出血はもう止まっていたが、ラミエルの体の周りには血だまりと言っていいほどの大量の血液が流れ出していた。人間なら、地球人なら、出血多量で死んでもおかしくない量だ。だったら宇宙人だって同じだろう。  ラミエルを抱きかかえたまま茫然自失している俺のすぐ横に、ここまで乗って来たバンを二尉が運転してきた。ハッチバックのドアを開け、俺を急かしてラミエルを中に運び込ませる。麻耶もよろよろとした足取りで車体にもたれてそれを見つめている。
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