第13章 1B64

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 東京の海岸線の土地は明治時代以降埋め立てを繰り返して出来た場所が多く、江戸時代には海がかなり都心の奥の方まで切れ込んでいて、江戸城から海面が見えたと聞いた事がある。俺たちは海の近くの、江戸の町のはずれ辺りに出て来たらしい。  とりあえず人気のありそうな方角へ歩くとすぐに大きな町が見えた。木造の家が立ち並ぶ、時代劇で見たのとそっくりな江戸の町だ。間違いない、確かにこれは江戸時代だ。  念のためにコンパクト型スパコンで今が何年か確認していたラミエルが素っ頓狂な声を上げて俺に駆け寄って来た。 「早太さん、変です。これを見て下さい」  スパコンの画面を覗き込むと「1864」と表示されている。俺はポケットから小型の日本史年表を取り出して確かめる。文久4年は二月に元治という年号に改元されていて、西暦では1864年にあたる。 「ラミエル、別に問題ないじゃないか。1864年で合ってるぞ」 「いえ、そうじゃないんです。よく見て下さい」  俺はもう一度画面の数字を見つめた。やはりそこには「1B64」と……ん?イチ、ハチ、ロク、ヨンじゃなくてイチ、ビー、ロク、ヨン?なんだ、こりゃ?横から覗き込んだ桂木二尉も気づいた。 「なるほど。歴史上存在しなかった年号になっているわけね。どうやら、あの二人の言う通りこの時点から歴史が変わり始めているんだわ」 「ちょっと、兄貴に桂木さん!あれ見て」  麻耶がそう叫んで遠くを指差す。次の瞬間、俺は開いた口がふさがらなくなった。それは全体としては確かに江戸の町の風景だった。しかし、その真ん中をなんと高速道路らしき物が横切っている。
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