第13章 1B64

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 サチエルがあわてて取りなすように話を終わらせた。 「あ、あら、よろしいですわよ。地球人のみなさんに分からない事がわたくしたちに分かるはずはありませんし」  いろいろ考え事をしながら歩いていたせいだろう。次の四辻で俺は小さな女の子と出合い頭にもろに正面衝突してしまった。勢いよく地面に倒れた女の子を俺はあわてて抱き起こす。 「ご、ごめん、君、怪我はないか?」  すると、突然その6歳ぐらいの女の子は涙をぼろぼろ流しながらかがんでいる俺の首に抱きついてきた。 「あに様!兄様だ~!帰って来てくれたんだね。小夜、会いたかった。ずっと会いたかったんだよ~」  は、はあ?一体何の事だ。女の子の後ろから駆け寄ってきた母親らしい女性が、俺から引きはがそうとしたが、その女の子は俺にしがみついて離れようとしない。その母親らしき人は俺に向かってすまなさそうに言った。 「これはとんだ御無礼を。これ、小夜、この方は兄様ではねえ」  そう言いつつ俺の顔を見たその女性は、はっと息を飲んだという感じで驚愕の目で俺を見つめた。 「あれまあ。これは小夜が勘違いするのも無理はねえ。ほんとに小夜の兄に生き写しだあ」  俺たちが異国から来た南蛮人だと告げると、その女性は俺たちにこう提案してきた。 「もし今夜の宿がお決まりでなかったら、うちにお泊まり下さいませんか?この小夜も喜びますし、これも何か神仏のお引き合わせかもしれません」  俺は何が何やら分からないまま、その女性に聞き返した。 「あ、あの。兄様というのは?」 「はい、この小夜の年の離れた兄でございます。もう二年前になりますか、勤皇の志士と役人の斬り合いの巻き添えになって、命を落としまして……」
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