第15章 ヨスガノウミ

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「ラミエルさん!」  桂木二尉がラミエルに叫ぶ。ラミエルはコンパクト型スパコンを取り出して素早く画面を操作する。そして顔を上げて興奮した表情で俺たち全員に言った。 「止まりました!パラレルワールドの安定化フィールドは消えています」  よし!これで俺たちの方の地球が消滅する危険はなくなった。ほっと胸をなで下ろした俺の後ろで、だが、ユミエルが急に奇妙な唸り声を上げた。 「アア!ハッ、ハッ……キャー!」  最後は悲鳴になった。驚いて振り向いた俺は今まで見た事のない、恐怖にひきつったユミエルの様子を見た。ユミエルは両手で頭を抱え込み、その瞳は極限まで見開かれ、顔色は真っ青を通りこして紫色になっていた。今にも倒れそうな感じで深くうつむいて、口からは甲高い、意味不明な音を漏らしている。  ズシンという音と共に、あの巨大生物がタワーから俺たちのいる方向に体の向きを変える。その巨体のところどころから、血がしたたっていた。さっきのタワーの迎撃光線でだいぶ傷ついたようだ。その目は血走って周りの地面を見下ろしている。  やつが一歩前に踏み出し「グゥワー」と咆哮を上げた時、とうとうユミエルが地面に膝をついて絹を裂くような悲鳴を上げた。 「キャー!ああ、うわあ!イヤーーーーー!」  何が起きたのか分からなくて俺が茫然としていると、桂木二尉が俺の横を走り抜けてユミエルに駆け寄り、首の後ろを手刀で一閃した。ユミエルはそのまま地面に崩れ落ちる。駆け付けたサチエルが彼女の体を抱き起こし、二尉に詰め寄る。
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