第2章 史上最低の侵略

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 麻耶はこれ見よがしに「ハァ」とため息をついて小さな子供に言い聞かせるような口調でこう続けた。 「商品取引所とかと違ってさ、こういう小売店での金の買い取り価格は毎日変わるし、店によってもわずかに違うし、同じ店でもその日によって少しだけど高かったり安かったりするもんなの。今日の買い取り価格の相場はアパート出る前に一応ネットでチェックはしたけどね。けど念のため、どっちの店に多くお客が入るか、見てからにするのよ」  なるほど、と俺は感心した。小さい頃からしっかりしていると言えばこれほどしっかりした子供はいないという妹だったが、これほど頼りになるとは!  が次の瞬間ある疑問が俺の心の深い所からジワっとにじみ出てきた。  高校一年生の女の子が、なんでこんな事にそこまで詳しいんだ?  それを問いただそうとした瞬間、麻耶が俺の左腕をつかんで腕時計の文字盤をのぞきこんだ。 「おっと、十分経ったわね。よし、あっちの店にするわよ」  そう言って向かって左側の宝飾店に俺達を引き連れて入って行く。小さな、妙に中が薄暗い店で奥のカウンターに六十前後ぐらいのじいさんが一人座っていた。どうやらこの店の経営者らしい。  店主は麻耶をひと一目見るなりこうあいさつした。 「おや、いつものお嬢さん。今日は買いですか、それとも売り?」 「売りよ」と慣れた口調で麻耶が答える。
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