第15章 ヨスガノウミ

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 砂浜で一団になってそれを見つめながら、俺はなんだか奇妙な感動を覚えていた。人知れず海底に潜んでいた魔神様と呼ばれる太古の巨大生物。きっとこの土地の人たちの間では、恐怖と畏怖の対象であると同時に、守護神、守り神としても崇められてきたのだろう。  その魔神様は少なくとも百年ぶりにその姿を現し、使命を果たしてまた孤独な海底へ帰ろうとしている。俺はやつの背中を見つめながら、なにか胸がジーンとする感覚を覚えていた。やつの体が半分ぐらい水中に没したところで、不意に桂木二尉が思い出したように言った。 「あら。海に帰っちゃっていいのかしら?さっき小夜ちゃん『お山へお帰り下さい』って言ってなかった?」 「ガ、ガウッ?」  巨大生物の歩みがピタッと止まり、首だけをぐるっと回して俺たちの方を振り返った。何かきまり悪そうな顔つきになったように見えた。頭からしたたり落ちている海水の滴が冷や汗に見えたのは俺の気のせいだろうとは思うが。  ああ、もうこの人はまた余計な事を。俺は服の背中からハリセンを無言で抜き出して、二尉の頭のてっぺんに叩きつけた。  タイミングを計っていたかのように見事に同時に、5本のハリセンが桂木二尉の頭に炸裂した。ん?5本?また一本増えてるな。そのハリセンの先を見渡す。俺、麻耶、ラミエル、サチエル、そして……最後のハリセンはユミエルだった。ううん、とうとうこの子までハリセン持ち歩くようになっていたか。 「ああん!なにも全員でよってたかってハリセンでぶたなくても~」  頭を抱えてうずくまった二尉にユミエルが容赦ないツッコミを入れた。 「海でも山でも、どっちでもいいじゃないですか!せっかく元の場所に戻る気になってくれてるのに!」
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