第15章 ヨスガノウミ

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 それからサチエル、ユミエル、麻耶、ラミエル、俺の順でお堂の扉から時空の穴へ抜けて行く。俺の番になった時、それまで黙って下を向いていた小夜ちゃんが泣きながら俺に走り寄ってきて俺の上着の裾をつかんで駄々をこね始めた。 「兄様、やっぱり行っちゃイヤ。小夜を置いて行かないで!」  予想してはいた事だが、俺は目頭が熱くなってきてしまった。出来る事なら俺だってそうしてあげたいが、こればっかりはなあ……小夜ちゃんのお母さんが後ろから彼女を抱きしめて俺に向かって言う。 「さあ、今のうちに。これ、小夜、兄様を困らせるでねえ」  小夜ちゃんはなおも俺に向かって叫ぶ。 「兄様!どこの国へ行けば兄様にまた会えるの?」  俺はとっさにこう答えた。 「21世紀という国だよ。俺はそこにいるから」 「じゃあ、小夜、いつかきっと兄様に会いに行く。ニジュウイッセイキという国に会いに行くからね」  桂木二尉に背中を押されて俺は時空の穴へ入った。小夜ちゃんの声はぷつりと聞こえなくなった。後ろ髪を引かれる思いというのは、こういう気持ちを言うんだろうな。俺は後ろを振り返りたい衝動を無理やり抑えつけながら、俺たちの地球の21世紀に続く空間を速足で通り抜けた。  不意に太陽の光が戻って来て、俺は一瞬目がくらんだ。もう夕暮れに近い時刻だった。出た場所はあの高速道路の非常階段の出口だった。最後に桂木二尉が出てきて、無線で迎えを頼んでいた。
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