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「兄貴、何やってんのよ。さっさと汲んでよ」
そう文句を言いかけた麻耶に、俺は人差し指を唇にあてて「シッ」と制した。
「聞こえないか?あれ」
「え?」
「歌だよ。かすかにだけど、聞こえないか?」
そう言われて俺以外の全員も声をひそめて耳を澄ます。数秒後、桂木二尉がそっとつぶやいた。
「ええ、確かに聞こえるわ。小さな女の子の声みたいね」
そしてラミエルが全身を小刻みに震わせながら小声で、しかし叫ぶような激しい口調で言った。
「それに、この歌は……早太さん、まさか?」
「この辺はすぐ近くに一般の人家もあるみたいね。あの崖の上の辺りから聞こえるわ。ちょっと行ってみましょう」
バケツをとりあえずその場所に置いて、俺たちはすぐ傍の急な狭い坂の小道を登って行った。坂を登り切ると一軒の農家風の造りの大きな家があった。その広い庭で5、6歳ぐらいの女の子がその歌を口ずさんでいた。小夜ちゃんが歌っていた、あの魔神様に捧げる歌を。
俺たちの視線に気づいた女の子は、おびえた様子で縁側の方へ駆けだした。縁側に一人の老婦人が姿を見せ、その女の子を抱き止める。その人は俺たちにやさしい視線を投げかけて問いかけた。
「おや、何かご用ですか?」
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