第2章 史上最低の侵略

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 俺が必死にツッコミを入れようとして麻耶がのらりくらりとかわすという、毎度おなじみの会話を繰り広げて十分ぐらい経った頃、店の主人が戻って来た。ちょいちょいと手招きで俺と麻耶を呼ぶ。俺達は期待に胸がはち切れそうになりながら、顔では必死に冷静な表情を作ってカウンターへ寄った。 「いや、驚きましたよ。まがうこと無き純金、純度99.999%。最近は純度の低い低品質な物持ち込まれる事が多くてね。これなら当店の最高のレートで買い取りますよ」  店主の言葉に俺達の心臓は早鐘の様になった。さすが宇宙人のテクノロジー!俺達は店主が差し出した馬鹿でかい電卓の液晶に浮かぶ数字に二人同時に顔を突進させた。  そして言葉を失った。二人とも同時に目をこすり、もう一度電卓を食い入る様に見るが数字は変わらない。どうやら見間違いではないようだ。  87,000。それが電卓に示された数字だった。もちろんドルでもポンドでもユーロでもない。日本円での数字だ。 「は、八万七千円!あの、ほんとにこれが相場なんですか?」  俺は思わず大声を上げた。店主は予想外に高い数字なので俺達が驚いていると勘違いしたようで落ち着いてこう続けた。 「ええ、今日の相場ですと、グラム当たり三千二百二十円。お持ちになったのが26.8グラムですから。お嬢さんはお得意さんだから、サービスもコミでこの値段ですよ。これでいかがです?」  にこやかにそう言う店主の顔をあっけに取られて見つめながら、俺はさっきの違和感の正体をやっと悟った。  軽すぎたんだ!百科事典一冊ほどの大きさの箱の中に、自然界で最も重い金属の部類に入る金が目一杯詰まっていたら、大の男でも片手では持てないほど重かったはずだ。箱を開けた時妙に小さいなと思ったのも、思い違いじゃなかった。文句なしにわずかな量でしかなかったんだ。  俺達は八万七千円の現金を受け取って、来た時とはうって変わったくら~い顔で、また電車に乗って俺のオンボロアパートへの帰路についた。
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