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「ひい婆様は変わった人でしてね」
老婦人が言葉を続ける。
「事あるごとに、自分は21世紀になるまで生きるんだと言っておりました。さすがにそうはいきませんでしたが、なんと満で105歳まで長生きしましてねえ。はい、亡くなったのが東京オリンピックの年だったそうで、近所でも語り草になっておりました」
俺の頭の中に、小夜ちゃんの最後の言葉がまざまざと蘇って来た。
……小夜、いつかきっと兄様に会いに行く。ニジュウイッセイキという国に会いに行くからね……
「あのう、もしよろしければ……」
桂木二尉がこの人には珍しく遠慮がちな口調で老婦人に頼む。
「お孫さんに、さっきの歌をもう一度歌ってはいただけませんか?」
「ほれ、マヨ。こっちへおいで」
老婦人は柱の陰に半分体を隠してこっちをのぞき見しているさっきの女の子を手招きした。マヨちゃんは恥ずかしがってなかなか出てこなかったが、やっと素早く老婦人の膝の上に飛び込んだ。
「マヨ。このおねえさんたちがお歌を聞きたいんだそうだよ。歌ってあげて、ね?」
彼女はお婆さんの膝に座ったまま、ためらいがちに歌を口ずさみ始めた。その歌は150年もの時を経て、歌詞もメロディも微妙に違っていた。だが、俺にはそれが小夜ちゃんの歌っていた、あの歌である事が分かった。俺はそのマヨちゃんという少女の中に、確かにあの小夜ちゃんの面影を見ていた。
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