第16章 エピローグ

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 それから沢に戻り、水を汲んだバケツを下げて俺たちはキャンプ場への道を歩いた。俺は左手にバケツを下げ、右手でラミエルに借りたコンパクト型スパコンで日本史年表を手繰っていた。  東京オリンピックの年、1964年に105歳で亡くなったのなら生まれたのは多分1859年。  9歳の時に明治維新。23歳の時に日清戦争勃発。45歳の時に日露戦争勃発。もしずっと東京かその近くで暮らしていたのなら、46歳で日比谷焼打ち事件と呼ばれる民衆暴動に遭遇していたかもしれない。  関東大震災には間違いなく遭遇したはずだ。その時64歳。71歳の時に昭和恐慌で日本経済は大混乱。82歳の時に日本とアメリカが開戦、86歳で東京大空襲、その8月に日本敗戦。80代の後半を日本中が廃墟になった食糧不足の大混乱期に過ごし、戦後復興の象徴だった東京オリンピックの年に他界。  何という苦難に満ちた生涯だったんだ。あの小さな無邪気な女の子が生きた時代は。せめて人生の晩年は豊かさを取り戻しつつあった戦後日本で少しは楽になれたのだろうか?21世紀まで長生きして俺に再会するという願いはついにかなわなかったけれど、それはそれで充実した人生だったのだろうか?
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