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「いえ、あの、その……あの時それを言おうとしたんですが……」
場所は俺のアパート。今のは俺の背中にぴったりくっついて麻耶の視線から何とかして逃れようと無駄な努力をしているラミエルのセリフだ。
麻耶は俺の前に仁王立ちになって、俺の背中に隠れているラミエルを視線で追跡している。
どうやらラミエルは「この数字の列も『隅から隅までそっくり同じ』にしてしまっていいのか?」と麻耶に聞きたかったらしい。が、あの時の麻耶は自分が思いついた作戦に酔ってハイになっていたし、ラミエルが偽札作りを止めようとしていると思い込んでいたから聞く耳持たぬ!という態度だった。
そこは気の弱いラミエルのことで、麻耶の迫力に押されて肝心な要件を口に出せず、何か変だなと思いつつも札の番号まで含めて忠実にコピーしてしまったのだった。
「だから……それに気づいてたんなら……なんであの時ちゃんと……言わなかった……の!よ!」
麻耶は怒りのあまり話し方が妙にゆっくりになっていた。これはこいつが本気で怒った時の癖だ。ラミエルが弱弱しい声で言い訳を試みる。
「だってあの時の麻耶ちゃん……なんか怖くて……それでその……つい言いだせないまま……」
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