第5章 全人類人質計画

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 さて水素爆弾、略して水爆は別に水素に火をつけて燃やすわけじゃない。こっちの方は「核融合エネルギー爆弾」と言った方が正確だ。  ウランのような大きな原子核は二つに割れるが、水素のような小さな軽い原子は逆に合体して一つの原子核になる事がある。これを「核融合」と言う。普通の水素原子は陽子という素粒子が真ん中に一個だけあって、その周りを電子が一個だけ回っているという実に単純な構造だ。  陽子はプラスの電荷を持ち、電子はマイナスの電荷を持つ。まあ、電池のプラス、マイナスと同じ事だ。プラス1マイナス1で合計ゼロになって釣り合って、水素という安定した物質になる。  ところが水素原子の中にはほんの少しだが原子核の中に「中性子」という素粒子を抱え込んでいるやつが存在する。中性子は電荷が無く、つまりプラスでもマイナスでもないから水素原子全体の電荷に影響を与えずに原子核の中に潜り込む事が出来るわけだ。中性子の質量、つまり重さは陽子とほとんど同じ。だから中性子を含んだ水素原子はそうでない水素原子の約二倍の重さになる。だから「重水素」と呼ばれる。  この重水素同士が核融合反応を起こして合体して一つの原子核になるとヘリウムという元素に変わる。この時、莫大なエネルギーを熱の形で放出する。ちなみに太陽のエネルギー源は主にこの水素の核融合だ。だから太陽というのは何十億年もの間、あれだけの光と熱を放出し続ける事が出来るのだ。
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