第5章 全人類人質計画

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 もちろん、一個や二個の高速中性子が体の細胞を壊した程度では人間は死なない。しかしその中性子の数が何億という数で、壊される体内の細胞の方も何億という数だったら?その場合その大量の高速中性子をシャワーの様に浴びた人間は・・・いや人間だけでなく、動物だって植物だって、生物は体の奥の細胞を大量にぶっ壊されて死んでしまう。  だが、ビルとか道路とか工場とか、生き物でない物体は壊れずに残る。つまり、中性子爆弾をどこかの都市の上で爆発させると、人間や動物は全部死ぬが、その都市は無傷で残る。そこへ兵隊を送り込めば簡単にその都市を占領出来る。  まあ、爆弾が爆発した中心部はそれなりに破壊されるが、都市の大部分を無傷で手に入れる事が出来る。そこにいた人間は兵士であれ民間人であれ、高速中性子のシャワーを浴びて死んでいるから……これが中性子爆弾の基本的な理屈だ。  言っておくが、中性子爆弾はSFの世界の話じゃない。1980年代には既にアメリカは爆発させる実験に成功、短期間だが実際に配備もしていた。しかし、これは実際には使えない核兵器だった。  当時はアメリカとソ連のどっちが世界の盟主になるか競争していて、それに勝つために研究されていたのだが、皮肉な事に中性子爆弾の実験に成功した頃から、ソ連の工業施設が、アメリカが率いていた西側諸国の基準では、あまりにも時代遅れでお粗末な物でしかない事が判明したのだ。
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