第5章 全人類人質計画

16/38
前へ
/285ページ
次へ
 マンハッタン地区の一角の川のそばに平べったい真四角の地味なビルが立っている。これが国連本部だ。横に低い建物があってこっちは総会が開かれるビル、いわば議事堂みたいな物。  今日国連大使はこの総会ビルの方に集まっているはずだ。どうやらテレビのニュース速報なんかが流れていたらしく、地上の人影は全員一人残らず空を見上げて俺たちの球体を指差している。  国連本部に突然UFO出現!というわけだから、そりゃ大騒ぎになっていて当然だ。 ラミエルは総会ビルの屋根の上に球体を着陸させた。いよいよ俺たちが人前に姿を現す時が来た。  といっても、もちろん正体をさらしちゃまずい。ラミエルは地球到着時に着ていたあの銀色の宇宙服姿、予備が一着あったそうでそれを麻耶が着ている。薄いフードの様な物を頭にかけると、二人の顔はまるでモザイクがかかったテレビ画面みたいに隠された。前後左右、上からと、どの方向から見ても顔が見えない。これは完ぺきな変装だ。 「よし、外へ出るわよ」と麻耶のご命令。 「だ、大丈夫なのか?球体の外で撃たれたりしたら……」  俺は一瞬ぶるっと体を震わせながら訊く。ラミエルが答える。 「球体のバリアの範囲を広げておきました。球体から三メートルまではバリアの中です。ですから三メートル以上離れないで下さいね」  今度は麻耶が俺に念を押す。 「いいこと?今日は兄さんがボスで、あたしたち二人が部下という設定だから、兄さんは黙って後ろに立っていればいいの。余計な口聞いちゃ駄目よ」 「ああ、分かってる。何も言わないでただ突っ立っていればいいんだな?」
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加