或る男の日記

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それにしてもこの村は実に美しい。 山々は青々として生命力に溢れ、飛び交うトンボや、静かに流れる小川は、どれをとっても一級の芸術品のようだ。 それに何より空気がいい。吸い込むだけで体内が浄化されていくようだ。 都会の薄暗い空を見、排ガスの混じったくすんだ空気をすい続けてきたとしては、この村の全てが美しく思えてしょうがない。 妻の療養のためとは言え、世間と隔絶された田舎で暮らすことには、いささかならぬ不安があったのだが、越してきて本当に良かった。 田舎は排他的との噂を聞いていたのだが、村人は皆親切だった。 早く、正式にこの村の一員として認められたい。
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