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軸に集中し、ブレのないように。洗練された重心の使い方、洗練された筋肉の瞬発を目指す。
遠藤真帆。
彼女は天才ハッカーだという。彼女に頼めば或いはプライベートな範囲として解決してくれるかもしれない。彼女に、頼めれば。
軸にしたはずの左脚に右脚がぶつかった。
「……はぁ」
揺れている。自分自身の内面も体幹も。和美は溜息を吐く。
全ての分野でナンバーワンになれるはずはない。そのくらいは和美にもわかっていた。
「みんなオンリーワン、1番じゃなくてもいい」
和美の母はそう言った。嘘ばっかり。和美は悪態をつく。1番のみが価値を持つのだ。
1番であれば価値を持ち、1番でなければもう何もない。「2番じゃ駄目なんですか?」かつて政治家がふざけたことを言ったという。「2番は負けの1番」昨年度からの同級生で映画フリークである眞柴想一がいつだったか言った言葉が妙に印象に残っていた。
1番は自分の妹になった。だから、逃げてきた。1番になるものなど滅多にいないことぐらい重々承知していた。しかし和美は逃げてきた。1番である妹から。
しかし、東防中は遠藤真帆という天才がいた。遠藤長太郎とも成績で拮抗している。
そういう下らないプライドで、和美はあまり遠藤真帆にも頼みたくなかった。そもそも誰にも頼りたくなかった。そのプライドを和美はひた隠しにしている。
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