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後ろから英語教師の老人が和美に話かけた。気配は察していたので和美は特に驚かない。ありがとうございます、と笑顔を張って応える。その間にもCentOSというものはシャットダウンが終わった。
「優秀で何より。質問はありますかね」
「大丈夫です」
「けっこうけっこう」
英語教師は朗らかに笑った。
「では私からの質問というか気になっただけなのですがあの子が何をしているのかわかりますかな」
彼は目を瞑って上を仰いでいる少女を指した。新しいクラスになったばかりだが、和美は彼女が誰なのかは把握していた。
「遠藤さん?」
情報処理に秀でた少女、遠藤真帆。違うクラスだった昨年でも彼女の話は耳にしていた。即ち天才だ、と。
「さきほどまでもの凄い早さでタイピングをしていたんですよ。ノルマが終了した様子なので見に行ったのですが画面も違う様子でした」
「多分情報処理の勉強だと思います。遠藤さんはコンピュータがとても得意なんです」
自分で聞きなよ、と和美は思った。同時に自分より早かった人間がいた、と。新学期早々、これか。
英語教師はもう2言程話して他へと歩いて行った。誰にも気づかれないように溜息を吐いて和美は窓の外を見た。見た、とはいってもブラインドがあるので春の陽射しが滲んでいる程度だ。しかし和美はそこにかかった複数の影を見逃さなかった。
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