68人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
はじめまして米倉です。
私は彼、新宮晶先生と同じ学校で体育教師をしています。
そして私が彼の恋人だと自負しております。
彼自身はそう思って無いようですが。
治療室で朝から晩まで黙々と作業をする私の可愛い恋人。
昨日分の仕事がまだ終わらないんだとか?
中に居座る生徒らを部屋から追い出し、彼まで逃げ出そうとするから捕まえてみる。
「逃げんなそこ座れ」
ぶっきらぼうな表情がさらに曇る。
間
「‥せぇーんせっ。先生。…新宮先生」
「……はい」
「どこみてるの」
「あの、近いですよ貴方」
「ダメ。こっちむいて」
「ぃっ…」
「………」
やっぱり
また、彼の細々とした体に新しい傷が増えている。
「芳彦さんですか」
「違います。‥もう服着てもいいですか?」
「ダメだよ。手当てするから」
「自分でしますから」
じっとしてりゃいんだよどうせ女並の抵抗力しかないんだから
氷のように冷たい体温
触れるだけで自身の熱までも失ってしまう
寒いのかな?悪いことしたかも
手当てをする手をやめて
すっと薄い胸板を抱き寄せる
黒い不幸の影。
けれど、彼はそれが幸せなのだと言う。
手酷く扱われ続けても、それがあの人の愛なのだ、と。
世の中にはいろんな愛の形がある。
純粋なものや歪なもの、叶わぬものに互いを食い潰すもの。それぞれに愛し方があり、受け止め方がある。
それは重々承知している。当人達にしか分からぬ顛末に口を出すだけ無駄なのだ。
最初はそう思って諦めていた。あの人がそれで幸せならば、この想いを封じ込めようと決めていた。
しかし、その身体に傷が増える度、瞳が悲しみに揺れる度に、俺は怒りに震えた。
愛する人を傷つけて悲しませるような愛など、愛じゃない。それは都合の良いただの支配と服従の関係ではないか。
だから思い切って言ったのだ、離れるべきだと。
『貴方には絶対に分からない。』
――俺には、分からない?
段々と胸の奥が苦しくなる。
抱き締める手を更に強めた。
きっと彼も苦しかろうに。
突き飛ばせばいいのに。
無抵抗の彼が異常に愛しい。
離したくない
離したくないっ‥
最初のコメントを投稿しよう!