おきて。

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はじめまして米倉です。 私は彼、新宮晶先生と同じ学校で体育教師をしています。 そして私が彼の恋人だと自負しております。 彼自身はそう思って無いようですが。 治療室で朝から晩まで黙々と作業をする私の可愛い恋人。 昨日分の仕事がまだ終わらないんだとか? 中に居座る生徒らを部屋から追い出し、彼まで逃げ出そうとするから捕まえてみる。 「逃げんなそこ座れ」 ぶっきらぼうな表情がさらに曇る。 間 「‥せぇーんせっ。先生。…新宮先生」 「……はい」 「どこみてるの」 「あの、近いですよ貴方」 「ダメ。こっちむいて」 「ぃっ…」 「………」 やっぱり また、彼の細々とした体に新しい傷が増えている。 「芳彦さんですか」 「違います。‥もう服着てもいいですか?」 「ダメだよ。手当てするから」 「自分でしますから」 じっとしてりゃいんだよどうせ女並の抵抗力しかないんだから 氷のように冷たい体温 触れるだけで自身の熱までも失ってしまう 寒いのかな?悪いことしたかも 手当てをする手をやめて すっと薄い胸板を抱き寄せる 黒い不幸の影。 けれど、彼はそれが幸せなのだと言う。 手酷く扱われ続けても、それがあの人の愛なのだ、と。 世の中にはいろんな愛の形がある。 純粋なものや歪なもの、叶わぬものに互いを食い潰すもの。それぞれに愛し方があり、受け止め方がある。 それは重々承知している。当人達にしか分からぬ顛末に口を出すだけ無駄なのだ。 最初はそう思って諦めていた。あの人がそれで幸せならば、この想いを封じ込めようと決めていた。 しかし、その身体に傷が増える度、瞳が悲しみに揺れる度に、俺は怒りに震えた。 愛する人を傷つけて悲しませるような愛など、愛じゃない。それは都合の良いただの支配と服従の関係ではないか。 だから思い切って言ったのだ、離れるべきだと。 『貴方には絶対に分からない。』 ――俺には、分からない? 段々と胸の奥が苦しくなる。 抱き締める手を更に強めた。 きっと彼も苦しかろうに。 突き飛ばせばいいのに。 無抵抗の彼が異常に愛しい。 離したくない 離したくないっ‥
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