2382人が本棚に入れています
本棚に追加
私は仏壇の前にいる。
チ―ン―…
お椀型の金を鳴らし、手を合わせ、帰郷の報告を済ませる。
おじいちゃんの家は、平家の一戸建てだ。
昔ながらの造りで縁側もある。
窓をいっぱいに開けると、夏なのに、涼しい風が家の中を通り抜けていく。
その風に揺られ、風鈴のチリンチリンと言う音が涼を誘う。
縁側の向かいには、庭があり、百日紅(さるすべり)の木がその枝を伸ばし、もうすぐ花を咲かせようとしている。
夕方、親戚のおばちゃんや、近所のおばちゃん達が、よく来る様になった。
おばちゃん達は、東京から来た私を見るなり、「夏ちゃん!綺麗になってから。」と言い、次には「うちの息子の嫁に。」「近所にえぇ人おるんよ。」と口々に言っていく。
田舎は慢性的な嫁不足にあるらしい。
でも、死ぬと決めた私には、愛想笑いしか出来なかった。
なんか疲れた…
私は、少し近所を歩いてみた。
何だか懐かしい感じがする。
この小川でメダカ捕ったなぁ。
あっ、ここ、同級生の家だ!元気かなぁ?
ここ、ここ!恐いおじちゃんいたなぁ。
いろいろな思い出が浮かんでは消える。
最初のコメントを投稿しよう!