田 舎

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私は仏壇の前にいる。 チ―ン―… お椀型の金を鳴らし、手を合わせ、帰郷の報告を済ませる。 おじいちゃんの家は、平家の一戸建てだ。 昔ながらの造りで縁側もある。 窓をいっぱいに開けると、夏なのに、涼しい風が家の中を通り抜けていく。 その風に揺られ、風鈴のチリンチリンと言う音が涼を誘う。 縁側の向かいには、庭があり、百日紅(さるすべり)の木がその枝を伸ばし、もうすぐ花を咲かせようとしている。 夕方、親戚のおばちゃんや、近所のおばちゃん達が、よく来る様になった。 おばちゃん達は、東京から来た私を見るなり、「夏ちゃん!綺麗になってから。」と言い、次には「うちの息子の嫁に。」「近所にえぇ人おるんよ。」と口々に言っていく。 田舎は慢性的な嫁不足にあるらしい。 でも、死ぬと決めた私には、愛想笑いしか出来なかった。 なんか疲れた… 私は、少し近所を歩いてみた。 何だか懐かしい感じがする。 この小川でメダカ捕ったなぁ。 あっ、ここ、同級生の家だ!元気かなぁ? ここ、ここ!恐いおじちゃんいたなぁ。 いろいろな思い出が浮かんでは消える。
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