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次の日、行ってくると声をかけて出て行った姉を見送って、私は洗濯物を干すためにベランダへ出た。
もう何日学校へ行ってないだろう。
ふと下をみたら、姉が小走りに学校の方向へ向かうのが見えた。小さく、姉かどうかはわからないほどの小ささで。そのはるか後ろを集団で歩いているランドセルを背負った人たち。
そいつらが立ち止まって上を見た。
思わずベランダへ隠れていた。どくどくと心臓が嫌な音を立てる。大丈夫、わかるはずがない。
そう思ってもう一度下を覗き込む。
…いない。立ち止まったのも、上を見たのも偶然だったんだろう。
洗濯物を干し始めた私の手が、急に鳴ったチャイムの音で止まる。
見たくもないのに、インターホンの液晶画面に映し出されたあの女と、クラスメートの姿に思わず息を飲む。
声がしないのだけが救いだ。何かを言っているんだろう、口をパクパクと動かしている。
当時のインターホンは受話器を上げなくても、通話ができる機能があった。
「やっぱり見間違いだよ」
「あいつんち、この番号じゃないの?」
「知らない。あ、でもさーバスケ部の子に聞いたらわかるかもよ。あいつ、双子のおねーさんいるって、バスケ部に」
「絶対引きずりだしてやろうぜ。んで、滅茶苦茶にしてやんの!」
「きゃはははは!わーるいんだー!」
「ねー、郵便受けに汚物入れない?」
耳を塞ぎたかった。
最後の言葉のあとに警備員室から出てきた警備員の人があいつらに声をかけた。
「そういうことをするなら、学校と警察に通報するよ。ちゃんと防犯カメラにも映ってるんだからね」
「…げ……」
「まずいよ、逃げよう」
そんな言葉が聞こえて、走る音がして、私は通話終了のボタンを震える手で押した。
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