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鈍色に光る剣せんが、俺の肩を浅くえぐった。
視界左上に固定表示されている細い黄線(ライン)が、わずかにその幅を縮める。同時に、胸の奥をひやりと冷たい手が撫でる。
黄色=HP(ヒットポイント)バーの名で呼ばれる青いそれは、俺の生命の残量を可視化したものだ。まだ最大値の八割以上が残っているが、その見方は適切ではない。俺は今、二割がた死の淵に近づいている。
敵の剣が再度のモーションに入るより早く、俺は大きくバックダッシュし、距離を取った。
「はっ‥‥‥‥」
無理やり大きく空気を吐き、気息を整える。この世界の】《体》は酸素を必要としないが、向こう、つまり現実世界に横たわる俺の生身は今激しく呼吸を繰り返しているはずだ。投げ出された手にはじっとり冷や汗をかき、心拍も天井知らずに加速しているだろう。
当然だ。
たとえ、俺が見ている全てが仮想の3Dオブジェクトであり、減少しているのが数値化されたヒットポイントであろうとも、俺はいま確かに己の命を賭けて戦っているのだから。
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