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魅入られたように動かない体。
それは正に蛇に睨まれた蛙。
『鬼は』
魅夜は美しい黒髪をふわりと舞わせて、剛太の前までやって来た。
とろりとした紅い目が弧を描いている。
頬に添えられる、ひんやりと冷たい手に、心臓まで捕まれた心地だった。
「たっ、たっ……。」
言葉の出ない剛太に、魅夜はおどけるように首を傾げる。
「私、本当に剛太君に会えて嬉しかったのよ?」
会ったときのままに綺麗な笑顔を、恐怖に顔を歪める剛太に向ける。
魅夜は剛太の目尻に浮かぶ涙を指でそっと優しく掬い上げた。
『誘い込む罠を仕掛けるわ。』
(どこから? どこからこうなった?)
「前の人を食べてから随分と経つんだもの。」
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