プロローグ

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柔らかな春風が僕の髪を掻き分けていく。 もう、春が来たのか。 そんなことを思いながら病室の窓から見える、綺麗に咲き誇った桜を見上げた。 今日で退院できる。 この景色と別れるのは寂しいが、それよりも家にいた方が何倍も気が楽だ。 まず看護師達に気を使わなくて良い。 検討違いな病名を掲げる医師もいない。 仕事で疲れてる父さんが、毎日お見舞いに来てくれる事もなくなって負担がかからなくなる。 父さんに迷惑をかけずにいられるのがやはり一番大きい。 一ヶ月前に母さんを失った父さん。 きっとその辛さは、僕よりも誰よりも大きかったはずだ。 僕がもう少し丈夫で、賢かったらもっと楽をさせてあげられるんだろう。 現実と言うのは本当に冷酷だ。 まぁたかが僕なんかがこんな事を考えても何も変わるはずがないから、これくらいでやめておこう。 僕が持病を抱えるように、みんな何かを抱えてるんだよなぁ。 それを僕は、忘れちゃいけないんだ。
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