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そこは混沌とした欲望が渦巻き、非日常的なことが当たり前に起こる世界。
人間に住処を追いやられた人にあらざる者たちが暮らしている場所。
そんな世界を人間たちは魔界と呼ぶ。
そんな魔界の一角。
人里遠く離れたその場所は魔界でも滅多に人の訪れることのない奥地。
広大な森に囲まれた高台に大きな屋敷がぽつんとそびえたっていた。
まるで外界との接触を断ち切ろうとしているかのように。
そこは魔界でも名の知れた美しき貴公子の住処。
主の名をレダと言う。
淡い金茶に輝く長い髪、すらりと伸びた手足に透けるような白い肌。
血を連想させるような深紅の瞳の美しきヴァンパイアだった。
そのあまりにも美しい容姿に一度彼の姿を見れば夢中にならない娘はいないといわれるほど。
もちろん例外はあるけれど。
ただし、どんなに言い寄られようと本人は惜しいことにどの娘にも興味は持たなかったが。
そんな彼は何千年という気の遠くなるような長い時間を隔離されたこの場所で過ごしてきた。
正直なところ、ここでの暮らしはもう飽きた。
真新しいことは何もない日常、彼の日課といえば本を読みふけるくらい。
だが、街へ出ればめんどくさいだけの社交場に連れ出されろくなことにならない。
娘達に追い掛け回されるのはごめんだ。
そうはいってもこの暮らしに不満があるわけではない。
物質的にはなんら困ったことはないし、同居人たちとの関係にもそこそこ恵まれている。
しかし、時として刺激は必要だとも思う。
ワンパターンな毎日など糞くらいだ。
「レダぁ!何か面白いことないの?」
ソファに寝そべりながら少女が1人、つまらなそうに声を上げた。
ビー玉のような丸くて大きな青い目がレダを見つめている。
どうやらこの日常を退屈に思っていたのはレダだけではなかったらしい。
レダは読みふけっていた本を閉じて彼女に向き直った。
彼女は天真爛漫なメドゥーサのキャリーだ。
メドゥーサとはいっても、普段は大人しく、滅多に本性を現すことはないのだが。
ふわふわの長い髪にレースのあしらったドレスを纏う様子はまるでフランス人形のよう。
ほんわかとしていて可愛らしい雰囲気の女の子だ。
あくまで普段は、だが。
彼女とは幼馴染みで身寄りがないことから仕方なく同居を余儀なくされている。
ちなみにレダの幼馴染みはもう一人いるのだが…
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