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「面白いことなどあるはずがないだろう。それよりも、ナグの姿が見えないがどうした?」
「あーナグなら部屋に籠ってる」
「どうした?」
「だって今日は満月だから。それもとっておきパワーの強い、皆既月食だからね」
「そうか…今日は満月なのか…」
レダは窓際にたって空を見上げた。
すでに辺りの陽は落ちて、銀色のまあるい月が顔を出している。
なるほど。
もう一人の同居人であるナグが部屋に籠っている理由に見当がついた。
実を言うと彼は狼男なのだ。
普段は温厚でにこやかな青年なのだが、満月を目にすると狼に変身してしまうという習性がある。
しかも性格は極めて凶暴で攻撃的、思い返せば付き合いの長いレダでさえ何度か変身した彼に襲われて怪我をしたことがある。
おかげで満月の夜は決して月を見ないよう、部屋に閉じこもるのがいつものパターンになっている。
「ナグは外に出られないしー、ここでじっとしているのもつまらないし…そうだ!お出かけしない?」
「お出かけ?どこに行くつもりだ?街なら勘弁だぞ」
「わかってるよぉ。相変わらずレダってば街が嫌いなのね」
「当たり前だ。街に出るとろくなことにならない」
「レダは人気者だからねー磁石みたいに男も女も寄ってくるもんね」
「どうせ財産目当てだろう」
「そりゃあこんな豪邸に住めるのはお金持ちの証だし?それに加えてこの美貌じゃね」
「これは生まれつきだ。それよりもどこに行くって?」
「あっ、そうそう!あたしね、人間界に行ってみたいの。ダメ?」
思いがけずキャリーから発せられた言葉にレダは息をのんだ。
―人間界。
それは実に魅力的な提案だった。
本来、人間界と魔界は時空の歪みによって行き来することは不可能だ。
だが、満月の夜だけは奇跡が起きる。
月の持つパワーによって人間界と魔界を繋ぐ道ができるのだ。
それも皆既月食の起こる夜ともなれば月の持つパワーは絶大で人間界に渡るのは難しくないだろう。
「あたし、行ったことないんだよね。どんなところか行ってみたいの!」
「結論から言えば行けるだろう。だが…」
レダは躊躇った。
人間界に足を踏み入れてしまえば理性を保つ自信がなかったからだ。
人間の女性が持つ血の匂いはあまりにも魅惑的なのだ。
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