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五月の風が吹き抜けて、芝の上に腰かけた私の髪を揺らす。
アスレチック施設に設置された小さな池の水面に歪な半円を描きながら吹き抜けるそれは、照りつける太陽の匂いを私に届けてくれた。
風の中、わずかにひまわりの香りが混じる。
そういえば風上の丘にひまわり畑があった気がする。この風はそこから来訪したのかもしれない。
運が良かった。今、東では工事が行われている。
もしこれがそこからの風だったとしたら、砂埃が混じって、こんな素敵な香りは味わえなかっただろう。
――そう、香り。
私が外の世界にいるのだということを最も実感するのが、沢山の香りに包まれた時だ。
焼けたアスファルトの香り、咲き誇る花の香り、土の香り、香水の香り。
部屋でパソコンとにらめっこするだけの日々を過ごしていた私にとって、それら全てが新鮮で、体の奥底から活力を引き出してくれるような気がした。
そんな香りの中でも、私が最も好きなのは……汗の香りだったりする。
みんなは汗臭いなどと言って敬遠する香りだが、あれはそのまま人間の生命の香りだと思う。
とても身勝手で、とても無防備で、それでいて色っぽい。
あの香りに包まれるたび、私は胸の奥が締め付けられるような気分になるのだ。
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