私は汗の香りに狂うのです

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私はゆっくりと立ち上がり、シャツの裾をスカートから引き抜く。 そしてその白いシャツを目いっぱい引き上げ、顔の下半分を襟の中へと押し込んだ。 ――うーん、匂わない。 こんなに汗の香りが好きなのに、私はどうあっても汗をかけないらしい。 事実、五月の太陽はじりじりと大地に熱を与えており、暑そうに手で仰ぐ生徒の姿も見えるほどなのに、私の体は一滴の水分も生み出さない。 うらやましいなんてよく言われるけど、私にとっては普通に汗をかける方がうらやましいよ、ばか。 「おい、へそ出てるぞ」 「ふぁえ?」 不意に横から声をかけられて、間抜けな返事をしてしまう。 ああ、うかつだった。 よりによってこの人にこんな姿を見られちゃうなんて……! 「だから、へそ出てるぞ。何のつもりだ、なんの」 「……せくしー?」 「バカなこと言ってないで、早くしまえ。はしたないぞ」 「……ふぁい」 強い口調で諭されて、私はゆっくりとシャツを下ろし、スカートの中に裾を引き込んでいく。 その様子を、悔しいくらいに下心の無い瞳で見つめるのは、遠藤長太郎。 いわゆる、私の想い人だった。
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