私は汗の香りに狂うのです

4/7
164人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
最初の印象は、私……遠藤真帆と同じ苗字の人がいる、というだけ。特に何もなし。 いつも変なポーズを決めながら、ヒーローになりたいとか言っていて、正直ついていけない。苦手な人だと思っていた。 しかし、いつからだろう。彼の真っ直ぐで純粋な部分に、どうしようもなく惹かれ始めたのは。 目の前のリアルを必死に生きて、汗を流して突き進む。 そんな人間は、ネットの世界にはいなかった。 あの空間にいるのは、私みたいに全てを諦めて大人ぶっているエセニヒリストと、他者を貶めて自身の心の安寧を得ようとする身勝手な人間ばかり。 むしろ彼みたいな暑苦しい人間は淘汰されてしまうだろう。 しかし、そんな雑音など跳ねのけてしまうほどのエネルギーを彼は持っている。 それが、どうしようもなく眩しいのだ。 「ほら、行くぞ」 そう言って、彼が私の手を引く。 その瞬間に、ふわりと漂う汗の香り。 あ、だめ。 溶けちゃう、堕ちちゃう、狂っちゃう。 どうして彼は、こうも私の心をかき乱すのだろう。 こんな感情、知らずにいれば、幸せだったのにな。 「ん? あれは……和美―っ!」 不意に、その視線の先にとても大事なものを見つけて、彼は私の手を離して走り出す。 予想通り、私の甘い時間はすぐに終わりを告げた。 それも、最悪の形で。 「てめえらー! 何してるんだー! 和美に手を出す奴は、この遠藤長太郎改め、武装戦士・遠藤超太郎(スーパータロウ)が成敗してくれる!」 スーパーなタロウさんは、何やらかっこよくバク転なんかを決めながら、複数の男子生徒に囲まれる橘和美の許へと駆け寄っていく。 彼女は、私の親友。 ――そして、彼の恋人なのだ。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!