ヴァンパイア・レディ

ACT──────1

噂といえばここ数日、都内では夜、通り魔が出没するという噂で持ち切りになっている。
何でも、襲われた人は皆首筋に歯形のような跡があり、そこから全身の血を抜かれ、殺されていたらしい。野生動物の仕業ではないかと騒がれたこともあったが、歯形と、歯と歯の間隔から人間のものであると判明した。
巷では吸血鬼殺人事件などと呼ぶ者もいたが、警察は断固として犯人は猟奇的殺人犯だと断定。今後の捜査方針で夜の警備を強化し、都内の学校施設などでは早めの帰宅を呼び掛けた。

しかしそれにも関わらず、犯行は輪をかけたように増加し、警察や世間を挑発するというよりは、抑圧されたことで欲求が高まり犯行に及んだものと専門家は説いている。

……そんな予想論なんてもの、何の意味も無いというのに。

全て、机上の空論だ。
噂の延長線上。人の口を伝って広まっただけの、くだらない都市伝説のようなもの。
しかしただの噂でなければ、通り魔は実在することになる。というよりも、その通り魔と呼ばれる人物の噂があるということは、少なくともその人物に近い誰かを、誰かが見た可能性が高い。噂とは大抵そういう風に広がるものだ。