ACT──────1

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その女は、東京タワーの一番上───タワーの先端に陣取っていた。 長い髪を夜風に浸し、抜群の安定感で先端に立っている。アンテナの先端という、本来有り得ないものを足場にしている女は、普通なら三百三十三メートルの高さに吹く強風にあおられ、それこそ塵芥のごとく吹き飛ぶはずだというのに、そこに立っているのが当たり前だとでもいうように佇んでいた。 女は満月を背景に夜の街を見下ろす。下で動く車や人間がオモチャのようだ。 背後に浮かぶ月光のカーテンによって、女の姿はシルエットでしか視認できない。唯一確認できることと言えば、風に揺れる髪がかなり長いということと、身長もそれなりに高いということくらいだ。 女は東京タワーの頂に立ったまま、眼下を見下ろして何かを探しているように見えた。探すといっても東京タワーのてっぺんと、人と文化が犇めく地上。見える筈もあるまいに───女の眼には、確かに見えているようだ。 通りを走る車から道を歩く人間の顔など。夜の東京の情報は余すところなく女の両目に集まっていく。遥か三百三十三メートルから見下ろす俯瞰の風景全てが、である。この時点で既に、女の視力は常人離れであることは明白だった。
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