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医師の物語
手術を終えた。失敗もなく順調に進ませ、手術を終えたが、まだ成功とはいえなかった。
なぜなら、患者が意識を取り戻していないからだ。患者が意識を取り戻し、後遺症もなく生活ができるようになるまでは、成功とは言えない。そして、今回の患者は元々体が弱い人なので、意識を取り戻すまで、気は抜けない。
更に、気が抜けないことがもう一つある。それは息子のことだ。私は医師として働いているので、家族よりも、患者のほうを優先してしまいがちであった。
だからこそ、息子の接し方も分からず、いじめられたと相談を受けた時も、厳しく当たってしまった。それが原因だろう。今日、息子は自殺を試みて、病院に運ばれた。私が患者の手術を行っていた最中のことだった。
そして息子も、未だ意識を取り戻していない状態であった。
私は、一人の子どもを死なせようとした。それは、医師として、親として、一人の人間として、間違った行為をしたという後悔が襲ってくるのに十分なものだった。
「先生、患者と息子さんが意識を取り戻しました。ただ二人とも、様子がおかしいそうで……」
後悔という波に押し潰されそうになった中、彼の言葉で私は救われた。とりあえずは大丈夫だ。私は一息つき、疑問に思った。――様子がおかしいとは、どういうことだろうか。
私はその疑問を晴らすためにも彼に言った。
「わかった、確かめに行こう」
「お願いします」
彼はそう言って、私が部屋から出るのを見送った。
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