ココロガワリ

6/17
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「……父さん」 その誰かとは、僕の父であった。父は、僕が父さんと呼ぶと驚いた表情で見ていた。父は少し考えたそぶりをすると、先程からいた二人を部屋から出させた。 「まさか、康希か?」 父は二人が部屋から出たのを確認すると、僕に向かって聞いてきた。 「父さんまで……何言っているの? さっきの人も……僕のことを透弥と呼んでいたし、透弥って誰のことなの?」 父の問いを理解できなかった僕は、思わず父に向って聞いた。父は、僕の言葉を聞くと、覚悟を決めたような顔をして、僕に向かって言った。 「いいか、よく聞きなさい。今の康希は、康希の姿をしていない、透弥君の姿になっている」 父の発言はあまりにも信じられず、冗談だと思ったが、父の真剣な顔を見て冗談とは言えない何かを感じた。 そして父はおもむろに、どこからか鏡を取出し、僕に見せた。そこには僕ではない誰かの顔が映っていた。 「鏡に映っているのが、康希の今の姿だ」 父は鏡を見せた後に、そう言って僕が、僕の姿とは違った人の姿に変わっていることを告げた。 次に父は僕に今の状況を説明した。――父の説明によると、鏡に映った人は、透弥という人で、僕はその人になっているらしい。彼は、体が弱く、病気になりやすい体質らしく、今日はその関係で手術を行われていたそうだ。その手術中に、僕は運ばれ、原因は不明だが僕は彼になった。 父は説明を終えると、彼の家族には記憶喪失と伝えるから話を合わせてくれと、僕に頼んだ。そして父は、返事も聞かずに、僕自身の様子を見に行くと言い、部屋を出た。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!