25人が本棚に入れています
本棚に追加
世界が赤く滲んだ。
否。
男が張った水の結界が、赤く染まったのだ。
男の名を叫ぶ声。その声は驚きと不安に塗り固められていた。
それもそのはず、水の結界を赤く染めたのは、飛び散った男の血。無数の赤い刃。炎の刃が男を切り裂いたのだ。
反射的に頭を守った男の腕からは血が流れ、滴り落ちる。ポタリ。そして、ボタボタと。鮮血が緑の草を赤に染めていく。
鉄の匂いに混じり、鼻に突く肉の焼けた匂いが男の周りに充満する。
全て、男の体から発せられたもの。
「ってぇ──」
残りの攻撃は結界に阻まれ、静けさを取り戻す。緩慢に男は腕を下ろした。
その腕から、新しい血は流れてこない。傷口を炎が焼き尽くしたのだ。
男は舌打ちした。傷口と言わず、腕は丸ごと焼かれているように熱を帯びている。時間が経てば経つほどに、熱は痛みとなり体を支配していく。
「……生きていたか。ならば、トドメだ」
呟かれた声に感情はない。
そして現れたのは、太陽をも隠すほどの巨大な火の玉。
指一本動かすのさえ、激痛が走る現状。誰しもが死を覚悟するであろう。
この黒髪の魔法使いを除き──。
その魔法使いの思考に、女性の存在はもう無かった。
魔法使いと同じ黒髪を持つ、女性の存在。
いまは目の前の事だけに集中している。
そして、男は睨む。
目の前の敵を────。
最初のコメントを投稿しよう!